東京地方裁判所 昭和42年(ワ)7503号 判決 1968年7月17日
原告 滝沢留六
右訴訟代理人弁護士 下光軍二
同 上山裕明
同 上田幸夫
同 小坂嘉幸
被告 小沼トモ子
<ほか一名>
右訴訟代理人弁護士 岩田広一
主文
被告らは原告に対し、別紙目録記載の建物を明渡し、かつ昭和四二年六月二一日から右明渡ずみまで一ヵ月金一二、〇〇〇円の割合による金員を支払え。
訴訟費用は、被告らの負担とする。
この判決は、仮に執行することができる。
事実
一、申立
原告は、主文第一及び第二項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求める。
被告らは、本案前の申立として、本件訴を却下するとの判決を、本案につき、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求める。
二、請求原因
原告は、別紙目録記載の建物(以下本件建物という)を所有しているが、被告らは、昭和四二年六月二一日以前から本件建物を占有している。本件建物の賃料相当額は一ヵ月金一二、〇〇〇円である。よって原告は、被告らに対し、所有権に基づき本件建物の明渡並びに所有権侵害による損害賠償として、昭和四二年六月二一日から右明渡済みまで一ヵ月金一二、〇〇〇円の割合の金員の支払を求める。
三、抗弁及び答弁
(一) 本案前の抗弁
原告本訴原告、利害関係人被告ら間の東京地方裁判所昭和四一年(ワ)第三六五四号事件の和解調書は、被告らは昭和四二年六月二〇日限り原告に対し、本件建物を明渡す旨の記載があるから、原告は改めてこれと同内容の債務名義を取得する必要がない。したがって本件訴は、訴の利益を欠くから、却下さるべきである。
(二) 請求原因に対する認否
(イ) 被告らが昭和四二年七月二日以降本件建物を占有していることを否認し、その余の事実を認める。
(ロ) 原告は、前記和解調書により被告らに対する本件建物明渡の強制執行を東京地方裁判所執行官に委任し、執行官は、昭和四二年七月一日右強制執行として本件建物に対する被告らの占有を解いたから、被告らは、同月二日以降本件建物を占有していないのである。もっとも被告らは、原告を被告として同裁判所に前記和解調書無効確認の訴を提起し、右訴は同裁判所昭和四二年(ワ)第六八八八号事件として係属中であり、また右強制執行停止の申立をし(同裁判所昭和四二年(モ)第一四、〇八〇号)、執行停止決定を得て、同年七月四日執行を停止した結果、本件建物は執行官が保管しており、原告には引渡されていない。
(三) 本案に対する抗弁
原告は、昭和二四年頃高橋昭夫に対し本件建物を賃貸し、同人は、昭和三三年一二月二二日小沼恵二に対し本件建物を転貸した。原告は、その頃右転貸借を承諾した。
小沼恵二は、昭和四一年一〇月二五日死亡し、妻である被告小沼が右転借権を相続により承継した。被告小川は、被告小沼の弟であり、右転借権の範囲内で居住している。
四、右三記載事実に対する原告の認否
(一)の事実中被告ら主張の和解調書のあることを認める。
(二)の(ロ)の事実を認める。
(三)の事実中原告が昭和二四年頃高橋昭夫に本件建物を賃貸したことを認める。小沼恵二が高橋昭夫から本件建物を転借したこと、原告がこれを承諾したことを否認し、その余の事実は知らない。
五、証拠≪省略≫
理由
一、本案前の抗弁について
本訴原告を原告とし、被告らを利害関係人とする東京地方裁判所昭和四一年(ワ)第三六五四号事件の和解調書に、被告らが昭和四二年六月二〇日限り原告に対し、本件建物を明渡す旨の記載のあることは、当事者間に争いない。しかし被告らが原告を被告として、同裁判所に右和解調書無効確認の訴を提起し、その訴が現に係属中であることも当事者間に争いない。
このように和解調書の効力について争いがあり、債務者から和解調書無効確認の訴が提起されている場合は、その訴の結果によっては、債権者は和解調書の債務名義としての効力を維持できなくなるおそれもあるのであるから、和解調書と同内容の債務名義を得るため、更に訴を提起する利益があるものと解すべきである。したがって本件建物明渡の訴には、訴の利益があるから、被告らの本案前の抗弁は採用しない。
二、本案について
本件建物が原告の所有であるところ、被告らが昭和四二年六月二一日から同年七月一日までこれを占有していたことは、当事者間に争いない。
原告が前記和解調書により被告らに対する本件建物明渡の強制執行を東京地方裁判所執行官に委任し、執行官が昭和四二年七月一日強制執行に着手し、本件建物に対する被告らの占有を解いたところ、被告らが原告を被告として和解調書無効確認の訴を提起すると共に、強制執行停止の申立をし、強制執行停止決定を得て、同月四日右強制執行が停止されたので、本件建物は執行官が保管しており、原告に引渡されていないことは当事者間に争いない。これによれば、被告らが和解調書無効確認の訴において勝訴の確定判決を得れば、右強制執行は取り消され、被告らが本件建物の占有を回復することになる。被告らの占有の喪失は確定的なものでなく、いわば和解調書無効確認訴訟の敗訴判決の確定を停止条件とするものである。このような状態にある場合は、所有物返還請求権の発生要件である被告の占有という要件は充足されたものと解するのが相当である。したがって被告らは、昭和四二年七月二日から現在までも本件建物を占有している。
原告が昭和二四年頃高橋昭夫に本件建物を賃貸したことは、当事者間に争いない。≪証拠省略≫によれば、小沼恵二が昭和三三年一二月二二日高橋昭夫から本件建物を転借したことが認められる。しかし同被告本人尋問の結果によっても、右転貸借について原告が承諾したことを認めるに足りず、その他この事実を認めるに足りる証拠はない。
以上によれば、被告らの本件建物の占有は、不法といわなければならないから、被告らは原告に対し、本件建物を明渡す義務があり、また本件建物の賃料相当損害金が一ヵ月金一二、〇〇〇円であることは、当事者間に争いないから、被告らは原告に対し、昭和四二年六月二一日から右明渡済みまで一ヵ月金一二、〇〇〇円の割合による損害金を支払う義務がある。
三、よって原告の請求を認容し、訴訟費用の負担及び仮執行の宣言について民訴法第八九条、第九三条第一項本文、第一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 岩村弘雄)